数字を積み重ねることが出来るということ

ATPツアー

フェデラーの1万回目のサービスエース


現在開催されているウィンブルドンの1回戦でフェデラーが通算1万回目のサービスエースを決めた。


サービスエースが記録されるようになった1991年以降で、通算のサービスエースが1万回を超えているのは、カロビッチとイヴァニセビッチという超強力ビッグサーバーの2人だけである。そこにフェデラーが加わることとなったのだ。

フェデラーのサーブが強力なのは間違いないが、カロビッチ、イヴァニセビッチの二人と比べるとサービスエースを量産するタイプではないのは明らかだ。

1試合当たりのサービスエースの数をみると、カロビッチは驚きの19.4本、イヴァニセビッチも13.9本あるのに対し、フェデラーは7.7本にすぎない。

そんなフェデラーがどうして通算10,000回ものサービスエースを決められたのか?

もちろん、試合数が多いのだ。

ウィンブルドン前までのカロビッチの試合数は641、既に引退しているイヴァニセビッチは932試合なのに対し、フェデラーは1351試合である。

なんだ。試合数が多いなら、通算でサービスエースの回数が増えるのも当たり前でしょ。少ない試合数でエースを量産した方がすごいよ。

という見方も、もちろんあるだろう。

しかし、フェデラーが積み上げ来た1351という試合数には、ものすごい価値があるのだ。

勝利を上げ続けるということ

オープン化以降、ウィンブルドン前までの通算試合数(勝利数順)をみてみると、上位にはそうそうたるメンバーが並ぶ。

■ATPツアー通算勝敗数
選手勝利敗北試合数勝率
コナーズ1256279153581.8%
フェデラー1104247135181.7%
レンドル1068242131081.5%
ビラス928285121376.5%
マッケンロー877198107581.6%
アガシ870274114476.0%
ナダル849180102982.5%
エドバーグ801270107174.8%
ジョコビッチ77916294182.8%
ナスターゼ775300107572.1%
サンプラス76222298477.4%
ベッカー71321492776.9%
フェレール701345104667.0%
ゴットフリート680324100467.7%
チャン66231297468.0%
マレー65118383478.1%
S・スミス64626290871.1%
オランテス63825188971.8%
アッシュ63420984375.2%
ムスター62127389469.5%
なかでも、通算で1,000勝を超えているのはコナーズ、フェデラー、レンドルの3人だけである。テニス史上最高の選手を決めるとするならば、いずれも候補に入ってくるような、その時代を代表する選手である。

あと3年、今のレベルで現役を続けることができれば、ナダルもここに入ってくるだろう。ジョコビッチも4年ちょっとレベルを維持出来れば可能性はある。しかし、マレーは少し難しいかもしれない。

なにしろ一時代を築いたサンプラスでさえ、通算762勝である。サンプラスと同時代でより長く現役を続けたアガシでも870勝なのだ。ツアーで1,000勝を上げるのは並大抵のことではない。

そして勝利を上げるためには、まずは試合をしなければならないが、ATPツアーにおいては、その試合をすることでさえ決して簡単なことではないのだ。

ビッグサーバー、カロビッチはフェデラーのほんの1年後からツアーに参加している大ベテランだが、通算の試合数はフェデラーの半分にも満たない。

この試合数の差には、ランキングが大きく影響をしてくる。

男子テニスのトップツアーであるATPツアーには、エリート中のエリートだけがエントリーすることが出来る。

大会にもよるが、基本的にはATPランキングが高い選手が優先的に出場することが出来、ランキングが低い選手は予選を戦うか、場合によっては予選に入ることも出来ない。このため、選手はATPランキングを少しでも上げるために、ATPツアーにはカウントされないが、ATPポイントが得られる下部ツアーの大会に出場してポイントを稼ぐこととなる。

カロビッチがATPツアーで初勝利を上げたのは、1998年のプロデビューから5年目の2002年のことである。その5年間カロビッチは休んでいたわけでも、怪我をしていたわけでもない。フューチャーズやチャレンジャーなどの下部ツアーを回ってポイントを稼いでいたのだ。

カロビッチは、この2002年にATPへ2大会、チャレンジャーには18大会、フューチャーズにも2大会、デ杯の試合に1回出場している。しかし、ATPの記録として残るのは1勝4敗という数字だけである。

対して、フェデラーはプロデビュー2年目の1998年にはATPレベルで2勝を上げ、デビューから5年目の2001年には初優勝をしている。カロビッチが初勝利(優勝ではない)を上げた2002年には、年間58勝22敗でツアー優勝も3回、ランキングは6位まで上げている。

ATPツアーでは大会で5勝から6勝、グランドスラムでも7勝すれば優勝することが出来る。勝ち抜けば一つの大会でグッと勝利数を増やすことが出来るのだ。ただ勝ち上がるほどに対戦相手も強くなり、より厳しい試合を戦うことになる。

しかし負ければ、そこでその選手にとってその大会は終わり、次の大会に向かわなければならない。移動のことを考えれば、年間に参加出来る大会数には限りがある。

通算試合数を増やすためには、勝ち続けなければならないのだ。

そして年間50勝を20年続けることが出来れば、通算1,000勝となるが、これは当然簡単なことではない。

最近ランキングのトップクラスに定着している日本の錦織の勝利数は過去5年で、2012年:37勝、2013年:36勝、2014年:54勝、2015年:54勝、2016年:56勝となっている。

同じ時期の錦織のランキング(年末)は、2012年:19位、2013年:17位、2014年:5位、2015年:8位、2016年:5位、である。

勝利数とポイントはイコールではないが、おおよそトップ10前後にいなければ、年間50勝を上げることは難しそうである。というか、年間50勝をあげれば、トップ10が見えて来るということなのかもしれない。

フェデラーは58勝を上げた2002年から、45勝に終わる2013年まで12年連続で50勝以上を上げた。その12年間は年間最高92勝(!)で合計778勝。平均は65勝である。そして、2013年から、ツアーの後半を欠場することとなった2016年までの4年間で合計202勝(平均51勝)。そして1997年のプロデビューから年間58勝を上げる2002年までに積み上げた5年間でのちょうど100勝、今年のウィンブルドンまでの24勝を加えて1,104勝である。

決してビッグサーバーではないフェデラーの1万本のサービスエースは、長い間トップに君臨してきたという並外れた実績の賜物なのだ。

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