日本人男子3人目のツアー優勝!
今年の6月から7月にかけてATPツアーとして初めて開催されたのトルコ、アンタルヤオープンで杉田祐一が松岡、錦織に次いで日本人男子3人目となるツアー優勝を成し遂げたことは今年の日本のテニス界における指折りのビッグニュースとなることは間違いないだろう。
しかも、ツアー優勝を果たすまで、杉田は決して錦織に次ぐ日本人ナンバー2の選手という扱いではなかった。実際のランキングでも、最近ではダニエルや西岡、少し前では添田や伊藤といった選手が杉田よりも上の位置を占めていることが多かった。
アンタルヤでの優勝についても、シード選手の離脱や早期敗退が相次ぎ、ドローに関して運に恵まれたという側面は小さくはなかっただろう。
しかし、アンタルヤでの優勝以降、ウィンブルドンでの2回戦進出、そしてマスターズであるシンシナティでアメリカのソック、ポルトガルのソウザ、ロシアのカチャノフらの有力選手を破ってブルガリアのディミトロフとの準々決勝に進出して見せたことで、杉田はその実力を知らしめた。
期待度の高まった全米オープンでは2回戦で姿を消してしまったが、その後ホームで開催されたデ杯ではシングルスで2連勝して日本のワールドグループ残留にも大きく貢献している。世界ランキングも42位まで上昇し、今後の活躍次第ではグランドスラムのシードが狙える位置にまで近づいてきている。
必ずしもスター選手という扱いを受けていなかった杉田がこれだけの活躍を見せてくれたことで、もしかしたら他の日本人選手もツアーで優勝出来るのでは?という期待度が高まっていることは間違いないだろう。
ツアー優勝への高い壁
しかし、現実はもちろんそんなに甘くはない。
杉田に次いで日本人男子4人目となるツアー優勝を果たすのは誰なのか?
今、9月18日付けのATPランキングに入っている日本人選手は14位の錦織を筆頭に70人いる。しかし、もし日本人4人目のツアー優勝が近い将来に達成されると楽観的に予想して、その70人からその可能性を探ってみると、その候補者は恐らくたったの6人に絞られてしまう。
まず、ATPツアーで優勝するための前提条件として、ATPの下部ツアーであるチャレンジャー大会での優勝経験はおそらく必須となるだろう。そして、そう考えた時、現在のATPランキングに入っている日本人選手でその経験があるのは、ランキングに名を連ねている日本人選手70人全員の内のわずか9人となってしまう。
その9名はランキングの高い順から、錦織圭、杉田祐一、ダニエル太郎、西岡良仁、添田豪、伊藤竜馬、内山靖崇、守屋宏紀、鈴木貴男である。そして、既にツアーでの優勝経験がある錦織と杉田、そして現在は全盛期のようにツアーを回っていない鈴木を除くと、たった6人しか残らないのだ。
その6人、そして錦織、杉田の実績を並べてみる。
■日本人有力選手の成績(2017年9月18日付)選手 | ATPランク | 年齢 | ツアー出場年数 | Futures優勝回数 | Challenger優勝回数 | ATP勝利数 | 年末100位台回数 | ベスト8以上回数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
錦織圭 | 14 | 27 | 12 | 1 | 5 | 331 | 9 | 65 |
杉田祐一 | 42 | 29 | 15 | 12 | 9 | 31 | 7 | 4 |
ダニエル太郎 | 119 | 24 | 8 | 4 | 5 | 18 | 4 | 2 |
西岡良仁 | 124 | 21 | 7 | 5 | 4 | 22 | 4 | 4 |
添田豪 | 140 | 33 | 17 | 6 | 18 | 53 | 10 | 4 |
伊藤竜馬 | 162 | 29 | 12 | 8 | 6 | 35 | 8 | 4 |
内山靖崇 | 199 | 25 | 9 | 8 | 1 | 2 | 1 | 0 |
守屋宏紀 | 261 | 26 | 11 | 5 | 2 | 2 | 4 | 0 |
普通に考えて、6人の中で現在ツアー優勝に最も近いのはダニエルと西岡の若手2人ということになるだろう。特に西岡は6人の中で年齢も最も若く、ランキングも100位台を早くから維持していて既にベスト4への進出経験もある。今年不運にも故障に見舞われてしまったが、万全の状態で復帰してくればツアー優勝への期待度は最も高いだろう。
ダニエルも最近は実績十分で、有力選手とも互角の試合を何度も演じていることを考えれば、十分に可能性はあるだろう。気がかりなのはベスト8に2回進出したことがあるものの、それ以上に勝ち進んだ経験は無く、ツアー優勝に至るまでの大会期間中に調子を維持できるのかどうかが未知数なところかもしれない。ただ、今年優勝を果たした杉田の場合も、実際に優勝するまでツアーの決勝はおろか、ベスト4にも進出したことがなかったことを考えると、その時の勢いさえあれば、大きな壁をいきなり突破できるチャンスが来るかもしれない。
次に可能性があるのは、添田、伊藤のベテラン組ということになるだろう。
特に添田の実績は申し分なく、自己最高の世界ランキングが47位というだけでなく、チャレンジャーレベルでの優勝回数は既に18回を数え、ATPツアーでもベスト8進出が3回、ベスト4進出も2回と、単にキャリアが長いというレベルを超え、あともう少し運があれば、ひょっとしたら既にツアー優勝を成し遂げていたとしても全くおかしくないような数字を残している。唯一の懸念は年齢ということになるが、近年はテニス選手が活躍する年齢も高くなってきている。長く日本男子テニス界を支えてきた添田にあともう何回かのチャンスが巡ってきて欲しいと願う人は多いのではないだろうか。
杉田と同い年の伊藤は、もしかすると杉田の優勝に最も刺激を受けている存在かもしれない。プロデビューは杉田の方が早かったが、近年のランキングでは伊藤が杉田を上回っており、グランドスラムなど大きな大会での活躍も伊藤の方が目立っていた。一時の勢いが落ちてしまった感じはあるが、既にチャレンジャーレベルでの実績は十分である。杉田の優勝をきっかけにまずはベスト8の壁を破りたいところだろう。
そして、ギリギリの可能性を持っているのが、内山、守屋の2人だろう。
既に国内やフューチャーズレベルでの実績は2人とも申し分なく、すでにデ杯では代表メンバーとして定着もしているが、ATPツアーでの結果が上がってこない。体格もプレースタイルも異なる2人だが、2人とも若くから世界レベルで活躍していて、年齢も1つしか違わないという共通点もある。何かのきっかけで大きく飛躍してくるという可能性は2人とも消えていないだろう。
この6人以外となると、現段階でATPツアー優勝を望むのは非常に厳しい状況と言わざるを得ない。
ATPランキングに入っている70人の日本人選手は、チャレンジャーよりも格下のツアー大会で国内での開催回数も多いフューチャーズでは、どの選手もそれなりの結果を残している。しかし、そのフューチャーズで優勝をしている選手となると、その人数は70人から31人へと半分以下に減ってしまう。
基本的にチャレンジャーには予選があるため、チャレンジャーの本選に出場したことがある選手さえ、70人の内の半分程度となる36人しかいない。さらにチャレンジャーで勝ったことのある選手は29人に減る。チャレンジャーの優勝経験がある選手は前述の9人に限定されてしまうが、実はATPツアーの大会への出場経験がある選手も70人のうち、たったの14人しかいない。
そして、これらの実績は、日本人選手が大会数の少ない国内にとどまっていることが原因ではない。よほど若手の選手を除き、多くの選手がフューチャーズレベルにおいても、アジアも含む海外へ遠征をした上での結果なのだ。
本当にテニスのツアーで勝ち上がるのは厳しい。
国内トップの選手でも、フューチャーズでの優勝は難しく、フューチャーズで優勝できる選手でも、チャレンジャーで勝ち上がることはさらに難しい。そして、そのチャレンジャーで優勝が出来る選手になって、ようやくATPツアーの大会で勝利を掴むレベルに到達できると言えるだろう。そのレベル以上の選手しか勝ち上がって来ないATPツアーでの優勝はさらにその先にあり、グランドスラムなどのビッグタイトルはさらにそのまた先にあるのだ。
しかし、日本人初のATPツアー優勝である1992年の松岡修造の韓国オープンでの優勝から、2008年の錦織圭の衝撃的な18歳でのデルレイビーチでの優勝まで約16年かかったが、そこから今年の杉田の優勝までは9年4ヶ月である。
たとえ、4人目の日本人選手のツアー優勝がたとえ5年後だったとしても、日本人男子選手の実績としては十分前進したと言えるだろう。今すぐに結果を出せそうな選手は確かに限られているが5年後は分からない。何しろ、今のATPランキングには70人の日本人選手が入っているが、錦織が優勝した2008年2/18付けのランキングには日本人選手は39人しか入っておらず、松岡が優勝した1992年には29人しかランクインしていなかった。ツアー環境の変化があるにしても、具体的な目標として世界を目指している選手が増えているのは間違いないだろう。
5年後なら西岡はまだ27歳になる年である。そしてランク入りしていても、今はまだチャレンジャーでの実績の少ない選手、特に20代前半や10代の選手は5年後にようやくピークを迎えようとしていることだろう。さらにまだ見ぬ国内の10代前半の選手も、5年後には世界に挑戦できる年齢になってくる。道のりは険しいが、どちらも十分に期待出来そうなところに日本人男子選手の大きな可能性があると言うことは出来るだろう。
コメント