ロシアの新鋭、ハチャノフの躍進
今シーズンの実質的な最終戦、パリ・マスターズを制したのは、ロシアの新鋭、カレン・ハチャノフだった。
まさか!
と言ってしまっては、ハチャノフに失礼なのだろうが、マスターズにはトップ選手がズラリと顔を揃える。
既に今シーズン2回のツアー優勝を成し遂げている昇り調子のランキング18位とはいえ、これまでにATP500レベルでの決勝進出もなく、トップ10選手に勝ったのも1度だけというハチャノフが、マスターズのタイトルを獲得するという予想をすることは不可能に近かっただろう。
しかしハチャノフは、1、2回戦を順当に勝ち上がると、3回戦で過去に唯一勝ったことのあるトップ10選手であるイスナーを全てタイブレークという僅差のフルセットで破り、ベスト8ではA・ズべレフに6-1、6-2で完勝、ベスト4でもティームをストレートで破って決勝に進出、そして決勝では、今シーズン驚異的な復活を見せてランキング1位への復活を確実にしていたジョコビッチをも、7-5、6-4のストレートで下して、マスターズのトロフィーを掲げてみせた。
9位のイスナー、5位のA・ズべレフ、8位のティーム、2位のジョコビッチと、トップ10選手の4人斬りをしてみせ、このパリ・マスターズが始まる前には、1勝10敗だった今シーズンのトップ10選手との対戦成績を一気に5勝10敗まで引き上げた。
今シーズンの初めには45位だったハチャノフのATPランキングはいまや11位となり、自分自身がトップ10選手となる目前まで駆け上がったのだ。しかもハチャノフは、このパリ・マスターズを含め、ツアーの決勝戦に4度進出して、負けなしの4度優勝という勝負強さも見せている。
さすがに、このパリ・マスターズ制覇によって、次はハチャノフの時代が来る!というほどまで期待が高まったとは言えないものの、トップ選手に定着したAズべレフ、ティームという若手2人に続く存在として、ハチャノフが急浮上したことは間違いないだろう。
31人の若手選手と、トップに肉薄する7人
そして今シーズン、活躍したロシア人選手はハチャノフだけではない。
今年躍進した若手選手として確実に名前が上がるのが、ハチャノフと同じ22歳のダニール・メドベージェフだろう。
メドベージェフは今シーズン始めのシドニーでツアー初優勝をあげ、8月のマスターズ、ロジャースカップでベスト16、ウィンストン・セーラムでツアー2勝目、そして東京の楽天オープンで地元の応援を受けた錦織を破ってツアー3勝目を上げている。
ハチャノフとメドベージェフの2人のロシア人選手にとって、今シーズン残した結果は大きい。
■11月5日付ATPランキング(25歳以下のツアー優勝経験者)ATPランク | 選手 | 年齢 | 国 | ツアー優勝 | 対TOP10(2018) | 対TOP10(通算) |
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5 | A・ズベレフ | 21 | ドイツ | 9 | 4勝5敗 | 15勝21敗 |
8 | ティーム | 25 | オーストリア | 11 | 4勝5敗 | 14勝30敗 |
11 | ハチャノフ | 22 | ロシア | 4 | 5勝10敗 | 7勝16敗 |
12 | チョリッチ | 21 | クロアチア | 2 | 6勝8敗 | 12勝27敗 |
14 | エドマンド | 23 | イギリス | 1 | 2勝4敗 | 2勝17敗 |
15 | チチパス | 20 | ギリシャ | 1 | 6勝10敗 | 7勝11敗 |
16 | メドベージェフ | 22 | ロシア | 3 | 0勝5敗 | 1勝8敗 |
32 | プイーユ | 24 | フランス | 5 | 0勝0敗 | 5勝11敗 |
37 | キリオス | 23 | オーストラリア | 4 | 1勝7敗 | 15勝28敗 |
40 | ティアフォー | 20 | アメリカ | 1 | 1勝6敗 | 2勝10敗 |
54 | ベレッティーニ | 22 | イタリア | 1 | 0勝2敗 | 0勝2敗 |
68 | ルブレフ | 21 | ロシア | 1 | 0勝3敗 | 1勝9敗 |
74 | カルバレス バエナ | 25 | スペイン | 1 | 0勝2敗 | 0勝2敗 |
79 | ダニエル | 25 | 日本 | 1 | 0勝0敗 | 0勝4敗 |
81 | 西岡 | 23 | 日本 | 1 | 0勝2敗 | 0勝5敗 |
90 | ベセリー | 25 | チェコ | 1 | 0勝1敗 | 2勝16敗 |
11月5日付ATPランキングの100位までの中に、25歳以下の選手は31人いる。まだまだ伸びしろの大きい彼らが来シーズンさらに存在感を増してくることは間違いないだろう。近い将来にツアーの主役となる選手がこの31人の中から出て来ても全く不思議ではない。
しかしツアーの主役となるためには、ツアータイトルという結果が必要となる。
現在100位以内に入っている有望な若手選手の中で、既にツアータイトルを獲得している選手は16人である。
昨年のNext Genチャンピオンである韓国のチョン・ヒョン、ランキング100位までの最年少選手である19歳のシャポバロフ、そしてオーストラリアのデミノー、アメリカのフリッツといった今年のNext Gen出場選手も、いまだツアータイトルは獲得していない。
そして2回以上のツアー優勝となると、それを成し遂げている若手選手は今のところ7人しかいない。
今シーズン大きく躍進し、共にランキング20位内に入って来た選手であるギリシャのチチパス、イギリスのエドマンドは、初優勝はあげたが2勝目には届かなかった。日本のダニエルと西岡も同様である。ランキングのトップ100に入っているもう1人の若手ロシア人選手、アンドレイ・ルブレフも昨シーズンにツアー初優勝をあげながら、今シーズンに2勝目をあげることは出来なかった。
複数のツアータイトルを持つ7人の若手選手の中で、A・ズベレフ、ティーム、キリオス、プイーユの4人は今年躍進したというわけではなく、すでにある程度の実績がある選手である。
特に今年のツアーファイナルにも出場しているA・ズべレフとティームについては、ツアーでの立場を確立した選手となっている。トップ10に定着している彼ら二人は、すでにツアーの主役となる資格を得ていると言えるだろう。彼らが狙うのはもはや単なるツアー優勝ではなく、グランドスラムのタイトルやナンバー1といったチャンピオンの位置のはずだ。
キリオスとプイーユについては、実績は十分とはいえ、今シーズンの主役にはなりきれなかった選手と言えるだろう。実力があることは既に証明しているが、トップ選手となるためには何かが足りないという立ち位置で留まってしまった。23歳のキリオスと24歳のプイーユにとっては、いよいよ下の世代からの突き上げも始まり、ここからさらに上に登ることが出来るのかという正念場を迎えている。
そして、7人から実績のある4人を除き、残った若手3人の内の2人が、ロシアのハチャノフとメドベージェフである。ロシアの2人は、今シーズン残した結果により、若手選手の先頭集団に躍り出たのだ。
もちろん、残った若手3人の内の最後の1人、クロアチアのチョリッチも侮れない。チョリッチは、6月のハーレでフェデラーを破って自身2度目のツアータイトルを獲得し、10月の上海マスターズではワウリンカ、デルポトロ、フェデラーを破り、ジョコビッチに敗れたものの、準優勝を成し遂げている。
今シーズン、見事な復活を遂げたとはいえ、来シーズンはジョコビッチも32歳となる。38歳となるフェデラーはもちろん、故障がちなナダルとコンディションが読めないデルポトロ、マレー、ワウリンカと、これまでツアーの主役となっていた選手の先行きは決して万全とは言えない。
大きな世代交代が近づいて来ているのは間違いないだろう。
すでにトップ20に入り、トップ10を狙うロシアの2人は、ツアーの主役を争う絶好の位置に付けている。彼らがさらにツアーでの存在感を上げることが出来るのか、新世代の争いはいよいよ白熱することになりそうだ。
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