台頭する新世代
昨年から開催されるようになった若手選手の頂上決定戦「Next Gen ATPファイナルズ」だが、その効果が表れたのか、今年は昨年の「Next Gen ATPファイナルズ」に出場した若手選手の活躍が目立つシーズンとなった。
今のところ、その先頭に立っているのは、パリ・マスターズを制したロシアのハチャノフとなるが、11月5日付のランキングで11位となったハチャノフ以外にも、12位のチョリッチ、16位のメドベージェフ、25位のチョン、27位のシャポバロフと、昨年の「Next Gen」に出場した内の5人の選手がトップ30に入っている。
100位の壁
しかし、成功を掴んだ若手選手がいれば、厳しいシーズンとなった若手選手もいる。
昨年の「Next Gen」への出場資格を持っていて、1年前の2017年11月6日付のランキングで上位200位に入っていた若手選手は28人いる。
選手 | 国籍 | 年齢(2018年末) | ランキング(17/11/6) | ランキング(18/11/5) |
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A・ズベレフ | ドイツ | 21 | 3 | 5 |
ルブレフ | ロシア | 21 | 37 | 68 |
ハチャノフ | ロシア | 22 | 45 | 11 |
チョリッチ | クロアチア | 22 | 48 | 12 |
シャポバロフ | カナダ | 19 | 51 | 27 |
チョン・ヒョン | 韓国 | 22 | 54 | 25 |
J・ドナルドソン | アメリカ | 22 | 55 | 109 |
メドベージェフ | ロシア | 22 | 65 | 16 |
ティアフォー | アメリカ | 20 | 77 | 40 |
チチパス | ギリシャ | 20 | 87 | 15 |
T・フリッツ | アメリカ | 21 | 111 | 47 |
ブブリク | カザフスタン | 21 | 114 | 253 |
エスコベド | アメリカ | 22 | 117 | 206 |
ベレッティーニ | イタリア | 22 | 122 | 54 |
コズロフ | アメリカ | 20 | 131 | 414 |
ハリーズ | フランス | 22 | 132 | 145 |
オフナー | オーストリア | 22 | 135 | 203 |
ルード | ノルウェー | 19 | 138 | 111 |
モー | アメリカ | 20 | 145 | 103 |
サンティラン | オーストラリア | 21 | 147 | 300 |
オジェ・アリアシム | カナダ | 18 | 154 | 108 |
ムーテ | フランス | 19 | 155 | 158 |
T・ポール | アメリカ | 21 | 159 | 222 |
C・タベルネル | スペイン | 21 | 179 | 337 |
B・ポンジ | フランス | 22 | 182 | 304 |
E・ウマー | スウェーデン | 22 | 183 | 130 |
ポプコ | カザフスタン | 22 | 184 | 551 |
スーンウー | 韓国 | 21 | 189 | 220 |
もはや別格のA・ズべレフを除くと、昨年の「Next Gen」出場選手の中で、昨年からランキングを落としたのは、ルブレフとドナルドソンの2人だけしかいない。
そのルブレフ、そしてドナルドソンにしても、今シーズンは故障による欠場があったことと、ルブレフは2月に31位、ドナルドソンも3月に48位と自己最高となるランキングを記録しており、ランキングを落としたといっても、ルブレフはトップ100、ドナルドソンも109位に踏み止まっている。実際、若いルブレフは今年の「Next Gen」にも出場しており、まだまだ来シーズンも期待できる位置にいると言って良いだろう。
昨年の「Next Gen」出場をわずかの差で逃したアメリカのティアフォーとギリシャのチチパスも今年順調な成長を見せ、11月5日付のランキングでティアフォーは40位、大活躍したチチパスは15位までジャンプアップを果たした。2人は順当とも言えるかたちで今年の「Next Gen」に出場を果たしている。
昨年11月6日の時点で100位以内に入っていた若手選手の上位陣が比較的順調にランキングを上げることに成功したのに対し、100位より下の順位から今シーズンをスタートした若手選手にとっては、今シーズンは過酷なサバイバルとなった。
28人の若手選手のうち、昨年11月6日付で100位内だった10人では昨年よりランキングを落としたのが、3位から5位に落としたA・ズべレフを含めても3人だったのに対し、残りの18人では昨年より順位を上げたのが6人だけで、12人は昨年よりも順位を落とす結果となっているのだ。
しかも、順位を落とした12人の内、200位内に留まったのは2人だけで、300位内が6人、400位内が2人、500位内が1人、600位内が1人という激しい落ち込みを見せている。
これは100位から下の競争がそれだけ激しいということなのだろう。
もちろん100位から上の競争も激しいに決まっているが、100位以下の選手の場合、ATPツアー大会に予選からの出場となるケースがグッと増えてくる。予選からでも勝ち上がることが出来ればポイントは得られるが、そのポイントは本戦を勝ち進んだ時よりもずっと少ない。
そしてATPツアーの予選は厳しい。
予選に出てくる100位から300位台前後の選手には、「Next Gen」出場世代のような若手選手の他にも、調子を落としているかつてのトップレベルの選手や、まさに出てきたばかりのさらに若い選手など、多様な選手がランクインしている。
11月5日付のランキングで見ると、ビックサーバーのカロビッチが102位、昨年大活躍したアメリカのソックが105位にいるのを始めとして、イタリアのロレンツィやベルギーのビーママンズ、キプロスのバグダティス、ルクセンブルクのミュラー、ウクライナのスタコフスキーやドルゴポロフ、アメリカのヤングなど実績を持つ選手がたくさん入っている。
たとえ上位の選手であったとしても、絶好調な100位前後の選手と当たって勝てる保証はどこにもない。ましてや経験の少ない若手選手にとって、この中を勝ち上がっていくのは容易なことではないだろう。その上、ハイレベルな予選を戦い続けることで体力も消耗し、遠征のための資金も費やすこととなる。
長いシーズンを考えたとき、本戦にストレートインして試合を始めるのと、常に予選から戦わなければならないのとでは、結果に大きな差を生むことは間違いない。
もちろん予選レベルを安定して突破出来る実力があれば、何の問題もないのだが、実際のところ、その力を備えていることが、多くの選手が目指しているトップ選手の条件の1つとも言えるだろう。
Next Gen世代のサバイバル
本戦にストレートイン出来るランキングの席数は限られている。
結果としてそのすぐ下に位置する場所に多くの選手が集まり、その場所のランキング争いが激しくなるのは当然のことなのかもしれない。
しかしこれは、その大きな集団を抜けることが出来れば、一気にランキングを上げるチャンスがあるということでもある。
昨年の時点で100位より下のランキングだった若手選手の中で、それを成し遂げた数少ない成功例が、アメリカのフリッツと、イタリアのベレッティーニということになる。
フリッツは大きな結果こそないものの、チャレンジャーでの成績に加え、インディアンウェルズでのベスト16、USオープンでの3回戦進出、バーゼルでのベスト8、2度のATP250大会でのベスト4進出など安定した結果を残して1年間でランキングを111位から47位まで上げ、見事に「Next Gen」出場を果たした。もともとフリッツは一昨年の2016年にも76位でシーズンを終えており、昨年は膝のケガによる欠場がランキングに影響したという側面もあったことを考えれば、安定して100位以内を狙える実力があると言えるのかもしれない。
そして、イタリアのベレッティーニは、年明けから予選上がりの大会やチャレンジャーツアーでジワジワとポイントを重ね、7月にスイスのグシュタードでツアー初優勝を成し遂げて50位台にランキングを上げた。年齢的に今年の「Next Gen」に出場することは出来なかったが、1996年生まれ組としてのツアータイトル獲得は、チョリッチ、メドベージェフ、ハチャノフに続く4人目の快挙である。
フリッツ、ベレッティーニに続く成果を残したのが、アメリカのモー、カナダのオジェ=アリアシム、ノルウェーのルードということになる。彼ら3人に共通するのが、若いということである。3人とも来年の「Next Gen」への出場資格を持っている。100位内には届かなかったが、来シーズンはより大きなチャンスがあるだろう。当然、来年の「Next Gen」への出場権も手に届くところにある。
スウェーデンのウマー、今年の後半をピークにランキングを落としているフランスのムーテも、少し伸び悩んでいるように見えるが、まだまだ来シーズンに期待を持てる位置につけている。
カザフスタンのブブリクとアメリカのエスコベドは、今シーズン大きくランキングを落としてしまったが、2人ともトップ100に入ったことのある実力者だ。再び浮上することが出来るのか、来シーズンに正念場を迎える。
いくらかでも実績のある彼ら2人よりも厳しい正念場を迎えつつあるのが、フランスのハリーズとポンジ、オーストリアのオフナー、オーストラリアのサンティラン、アメリカのポール、スペインのタベルネル、韓国のスーンウーの7人だろう。チャレンジャーで奮闘を続けている彼らも、どこかで浮上の切っ掛けを掴まないと、ATPツアー本戦は遠くなっていってしまう。
そして10代前半から活躍し、既にチャレンジャーのタイトルを一昨年に獲得しているアメリカのコズロフも、現在のランキングは400位を下回っている。カザフスタンのポプコもケガが多く、出場試合が増えないまま500位台までランキングを落としている。
チャレンジャーの予選を勝ち上がるのに苦労している状況では、残念ながらATP本戦での活躍を望むべくもない。しかし、若い彼らの場合、何か大きな結果1つで状況が大きく変わるという可能性はゼロではない。
実際、今年の「Next Gen」に出場したデミノー、ムナル、ホルカシュの3人も、昨年11月6日時点では200位を下回っていたが、今年の11月5日付のランキングでは、デミノーが31位、ムナルが76位、ホルカシュが85位とランキングを急上昇させて「Next Gen」出場を決めている。
逆転は不可能ではない。
そして、今シーズン成功した昨年の「Next Gen」出場選手は、今年と同じように高いレベルで戦い続けることが出来るのか、来シーズンに試されることになる。
来シーズンは、今年の「Next Gen」に出場した選手も強力なライバルとなって来るだろう。そしてこれから「Next Gen」に出場する選手、さらには「Next Gen」に出場出来なかった同世代の選手も立ちふさがってくることになるはずだ。
来年の「Next Gen」が開催される頃に生き残っているのは誰なのか。早くも12月の末からスタートする新シーズンから目が離せない。
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