巨星セレナの影で栄光を掴んだシャラポワ

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生涯グランドスラムという金字塔

2020年2月、ロシアのマリア・シャラポワがツアーからの引退を表明した。


17歳という若さでウィンブルドンを制して以来、端麗な容姿、力強いプレースタイルと闘争心、そして、プレー中に発する大きな声、さらにドーピング疑惑など、賛否はあれど、コート内外の注目を集め続けた存在であることは間違いない。


20年の現役生活でシャラポワが獲得したタイトルは36個、獲得賞金だけで3,800万ドル、スポンサー収入などを加えた生涯収入では3億ドルを超えるとも言われており、まさに一時代を築いた女性アスリートの一人である。そのシャラポワの残した記録の中でも、最も価値があると思われるのが、生涯グランドスラムを達成したことだろう。


オープン化以降、生涯グランドスラムを達成した女子選手は、マーガレット・コート、クリス・エバート、マルチナ・ナブラチロワ、シュテフィ・グラフ、セレナ・ウィリアムズ、そしてマリア・シャラポワの6人しかいない。セレスも、ヒンギスも、エナンも届かず、おそらくビーナスも達成できないであろう生涯グランドスラムを、シャラポワが成し遂げたことは驚きに値する。

■女子の生涯グランドスラム達成者
 GS優勝全豪全仏全英全米通算タイトル通算勝率
コート1143139291.4%59356
エバート18273615490.0%1309146
ナブラチロワ18329416786.8%1442219
グラフ22467510788.7%902115
セレナ2373767385.3%834144
シャラポワ512113679.0%645171

シャラポワが歴史に名を残す名選手であることは間違いないが、他の生涯グランドスラムの達成者と比べてしまうと、実績で見劣りしてしまうことは否めない。

なにしろシャラポワ以外の5人は、いずれも全盛期には無敵とも称される一時代を築いており、グランドスラムの優勝回数は、オープン化以降で11勝(オープン化前も含めれば24勝)のマーガレット・コートが最も少ないという驚異のメンバーである。

当たり前のことだが、生涯グランドスラムを達成するためには、全豪、全仏、ウィンブルドン、全米の少なくとも4つのタイトルが必要である。それをシャラポワは通算で5勝という、ある意味、実に効率の良いやり方で生涯グランドスラムという大きな成果を手にしたことになる。

セレナという壁

もちろんグランドスラムの優勝回数が少ないからといって、それは「生涯グランドスラム」という頂点の基準での話であって、普通に見ればシャラポワはこの時代で抜きんでた存在である。

■シャラポワと同時代のグランドスラム優勝選手
 生年直接対決
(勝-敗)
優勝回数勝率GS優勝全豪全仏全英全米
モレスモー19791-32570.6%21010
ビーナス19805-34976.4%70052
スキアボーネ19804-0856.2%10100
セレナ19812-207385.3%237376
ミスキナ19812-31065.0%10100
エナン19823-74382.0%71402
リー・ナ198210-5972.8%21100
ペンネッタ19823-31161.5%10001
クライシュテルス19834-54180.2%41003
ストーサー198415-2957.7%10001
バルトリ19845-0862.1%10010
クズネツォワ19858-51866.4%20101
シャラポワ19873679.0%51211
イバノビッチ198710-41568.1%10100
ケルバー19884-51265.3%31011
アザレンカ19898-72071.8%22000
クビトワ19907-42769.5%20020
ウォズニアッキ19907-43070.6%11000
ハレプ19917-22070.0%20110
ムグルッサ19933-1766.3%20110
スティーブンス19933-1659.4%10001
バーティ19961-2872.8%10100
オスタペンコ19972-0362.0%10100
大坂19970-1562.5%21001
ケニン19981-0563.9%11000
アンドリースク20000-0373.3%10001

世界中のテニスエリートが集結しているのがWTAツアーだが、その中でも優れた選手であることの証の1つが、グランドスラムでの優勝だろう。

シャラポワがWTAツアーにデビューした2002年3月以降のグランドスラムで優勝した選手は26人いる。2020年2月の時点で、シャラポワはグランドスラムの優勝回数では、セレナ、ビーナス、エナンに続いて4番目、通算獲得タイトルでは前述の4人とクライシュテルスに続く5番目、通算勝率ではやはりクライシュテルスの下となるものの、ビーナスを上回って4番目となっている。直接対決での対戦成績でも、シャラポワに対してはっきりとリードしているのは、セレナとエナンくらいで、多くの選手に対してシャラポワが勝ち越した形となっている。

しかし、である。

シャラポワの戦績を眺めていて、どうしても無視することが出来ないのがセレナの存在である。

よく知られている通り、シャラポワはセレナに対する対戦成績が非常に良くない。

実に22回対戦して、2勝20敗である。

単純に勝率が悪いのはもちろんのことだが、シャラポワにとってこれだけ負けを重ねた相手は皆無である。

■シャラポワが敗れた相手
20敗セレナ
7敗エナン、アザレンカ
5敗ケルバー、クライシュテルス、リー・ナ、クズネツォワ
4敗イバノビッチ、ウォズニアッキ、クビトワ
3敗モレスモー、ミスキナ、サフィーナ、チブルコワ、デメンティエワ、ペンネッタ、ビーナス、ズボナレワ
2敗ラドワンスカ、バーティ、スアレス・ナバーロ、ガルシア、ハンチェコワ、
ヤンコビッチ、サファロワ、キリレンコ、ペトロワ、ストーサー、ハレプ

20敗を重ねたセレナの次にシャラポワが多く負けた相手は、エナンとアザレンカだが、その負け数はグッと下がって7敗となる。そしてさらにその次は、ケルバー、クライシュテルス、リー・ナ、クズネツォワの4人が5敗で並ぶこととなる。

そもそも、シャラポワはキャリアを通じて88人の相手に敗北を喫したが、1敗しただけの相手が1番多くて59人、2敗を喫した相手は11人となっており、シャラポワを3回以上下したことのある選手は18人しかいないのだ。そしてその18人の内、実に14人がグランドスラムの優勝経験者、そして残りの4人も準優勝経験者である。

シャラポワが多くの負けを喫した相手のいずれもが、同時代の実力者だということは、ある意味、シャラポワ自身も実力者であることの証明ともなるだろう。しかし結果として、その中でも最も対戦数も多かったのが、最も相性の悪いセレナだったということはシャラポワにとっては不幸だったかもしれない。

シャラポワはキャリアを通じて58回のグランドスラムに出場しているが、そのうちの8回でセレナに敗れている。これがシャラポワにとってグランドスラムで単独の相手に敗れた最多の回数であるのはもちろんのことなのだが、シャラポワに勝った方のセレナは、その8大会の全てで決勝戦まで進出し、優勝6回、準優勝が2回という抜群の成績を残している。

確かにセレナはシャラポワとの対戦に関係なく、シャラポワがグランドスラムに登場した2002の全仏以来、60回の大会に出場し、優勝22回、準優勝9回と、実に50%を超える凄まじい割合でグランドスラムの決勝まで進出はしているのだが、毎回決勝まで進出しているわけではない。つまり、グランドスラムでシャラポワが対戦したときのセレナは、かなり好調のセレナだったとも言えるのだ。

グランドスラムでセレナに喫した8回の敗戦の中には、3回の決勝戦での対戦も含まれており、シャラポワにとってセレナが大きな壁として立ちはだかり続けたことを示している。

もちろん、セレナが壁となっていたのはシャラポワに対してだけではない。

■対セレナと対シャラポワ
  VS セレナVS シャラポワ
生年勝率勝率
モレスモー197921016.7%3175.0%
ビーナス1980121840.0%3537.5%
スキアボーネ19802722.2%040.0%
ミスキナ1981050.0%3260.0%
エナン19826842.9%7370.0%
リー・ナ19821118.3%51033.3%
ペンネッタ1982070.0%3350.0%
クライシュテルス19832722.2%5455.6%
ストーサー19843827.3%21511.8%
バルトリ19841325.0%050.0%
クズネツォワ198531023.1%5838.5%
シャラポワ19872209.1%
イバノビッチ19871910.0%41028.6%
ケルバー19883633.3%5455.6%
アザレンカ198941818.2%7846.7%
ウォズニアッキ19901109.1%4736.4%
クビトワ19902528.6%4736.4%
ハレプ19912918.2%2722.2%
ムグルッサ19933350.0%1325.0%
スティーブンス19931516.7%1325.0%
バーティ1996020.0%2166.7%
大坂19972166.7%10100.0%
オスタペンコ1997010.0%020.0%
ケニン199810100.0%010.0%
アンドリースク200020100.0%00

シャラポワがデビューした後のグランドスラム優勝者のセレナに対する戦績を並べてみると、シャラポワより上の世代、そしてシャラポワに近い世代でセレナに対して勝ち越している選手は1人もおらず、エナンとビーナス、そしてケルバーが何とか勝敗を争う位置にいるくらいで、残りの全ての選手にとっては厳しい結果となっている。1993年生まれのムグルッサが3勝3敗でセレナに対しての勝敗を五分としていて、さらにその下の世代である大坂やケニン、アンドリースクはセレナに対して勝ち越しているが、セレナと15歳以上の年の差があるこの世代は、セレナとの実力差を測るうえでは全盛期のセレナとの対戦数が少な過ぎるだろう。

しかし、それらの若い選手を含む、グランドスラム優勝経験者という強力な対戦相手に対しても、セレナは勝率77%という対戦相手としては悪夢のような数字を残している。もちろんシャラポワも60%を超える勝率はあるのだが、当然、多くの選手がセレナに対するよりもシャラポワに対する方が勝率が高く、シャラポワにとっては、トーナメントで勝ち残っていく上で最も危険な相手がセレナであるのは間違いないものの、セレナと戦う前にその他のトップ選手に敗れるという可能性もかなり高かったのだ。

シャラポワの生涯グランドスラムは、決勝でセレナを破り、17歳で初めてグランドスラムを獲得した2004年のウィンブルドンを除き、セレナがベスト8以下の結果に留まった大会でシャラポワが優勝を遂げることで達成された。

それを幸運と見ることも可能かもしれない。

しかし、同時代にセレナという巨大な存在がありながらチャレンジを続け、ほんのわずかなチャンスを掴むことの出来る位置に居続けたところに、シャラポワの強さを見ることも出来るだろう。

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