フェデラーが復活した?

データ

5年半越しのグランドスラム制覇


今年のグランドスラム初戦となる全豪オープンでロジャー・フェデラーが2012年以来となる優勝を成し遂げた。第17シードからのまさかの優勝と言って良いだろう。しかも決勝の相手はナダル。グランドスラムでの男子シングルス史上最多優勝記録を更新するという大一番にふさわしい、まさに出来すぎなくらいの演出となった。


しかもシード順位を落としたフェデラーの全豪ドローはかなり厳しいものだった。第10シードのベルディヒ、第5シードの錦織、第4シードのワウリンカを破っての決勝進出である。マレーとジョコビッチと当たらなくて済んだという大きな幸運はあったものの、怪我による休養からの復帰となるトーナメントでフェデラーがこのドローを勝ち抜けると考えていた人は少なかったのではないだろうか。

もともと前回の優勝である2012年のウィンブルドンを制したときも、その前年の2011年を8年振りのグランドスラムタイトル無しで終えており、ピークは過ぎたとささやかれている中での優勝だった。それからさらに5年半以上空けてのグランドスラム制覇である。ATPツアーで5年の間トップにいることですら困難だというのに、5年半空けてグランドスラムを優勝することが出来るとはまさに驚きというほかない。恐るべしフェデラーである。

フェデラーのピーク

完璧な形で全豪を制したフェデラーだが、もちろんこれでかつてのフェデラーが復活したと考えることは出来ない。ただ、ピークと比べてどれくらいの位置にフェデラーがいるのかは気になるところである。

フェデラーが他の選手を圧倒していた時期が2004年から2007年の4年間であることは間違いないだろう。この4年間にナダルとの立ち位置が逆転しつつも、全てのグランドスラムで決勝に進出した2008年と2009年の2年間を加えた6年間がフェデラーのピークと考えるのが妥当なところだろう。

2004年から2009年の6年間でフェデラーが獲得したタイトルはちょうど50個。そのうちグランドスラムはなんと14個である。6年間で24回あったグランドスラムの内、14回優勝し、準優勝7回、ベスト4が2回、2004年全仏でかつてのクレーチャンピオンであるクエルテンに屈した3回戦敗退が最も悪い結果となっている。2010年の全豪まで含めることになるが、2005年のウィンブルドンから実に4年半以上の期間となる19大会連続でフェデラーはグランドスラムの決勝に進出している。本当に強い。改めて唖然としてしまうほどの強さである。

それに対し、2010年から2016年のウィンブルドン後にツアーを離脱することになる6年半の間にフェデラーが獲得したタイトルは27個、そのうちグランドスラムは2個である。しかもそのうちの1個は2010年最初のグランドスラムである全豪のタイトルであり、前述したように2005年からの連続決勝進出の最後となった大会である。結局この全豪の後、2010年の残りの3つのグランドスラムでフェデラーが決勝に登場することは無かった。

この6年半でグランドスラムは26回あり、フェデラーは優勝2回、準優勝4回、ベスト4が10回、ベスト8が6回、ベスト16が2回、2015年の全豪でセッピに敗れた3回戦敗退、そして2013年のウィンブルドンでスタコフスキーに敗れた衝撃の2回戦敗退が最も悪い結果となっている。普通に考えればこれでも全然悪く無い成績である。フェデラーはこの時期も多くのタイトルを獲得しており、出場さえすればグランドスラムでも常に優勝候補の一角を占めて来た。2012年にウィンブルドンを制した後には一時的にとはいえ世界ランク1位に返り咲いてもいる。しかし、その前のあまりにも輝かしい6年間と比べれば、明らかに落ちていると言うほかないだろう。

ではピークの前のフェデラーと、ピークの後のフェデラーで何が変わったのかというと、実はスタッツ上でそれほど大きな変化は見られない。リターンゲームでのポイント獲得率が低下し、サービスゲームでのポイント獲得率が増えていると言うことは出来そうだが、大幅なものではなくトータルでのポイント獲得率に大きな差はない。

6割を超える確率でファーストサーブを打ち、ファーストサーブが入った場合は8割の確率でポイントを奪い、セカンドサーブになっても6割弱の確率でポイントを取ってしまう。結果としてサービスゲームを9割近い確率でキープする。このサービスキープ力がフェデラーの力の源泉であることは間違いない。リターンゲームでの支配力はグッと落ちるが、それでも数度のチャンスがあれば相手のサーブをブレークする力は保ち続けている。

ピークを過ぎたと思われる2010年以降、2015年にツアーを離脱するまで、フェデラーの世界ランクは2013年から2014年の一時期に8位まで落としたほかは、主に2位から4位をキープしていた。ピーク時と比べてフェデラーのスタッツがそれほど落ちていないというのは当然と言えば当然の話で、フェデラーの上にはナダル、ジョコビッチ、マレーのいわゆるビッグ4のメンバーしか基本的にはいなかったのだ。

ツアーにおけるフェデラーの勝率を見ても、ピーク時の圧倒的な数値からは大きく落としているものの、2013年を除いて85%近くの数字をキープしている。ここ数年ランク上位に定着している錦織が年間の勝率でまだ80%を超えたことがないということを考えると、いかにこの数字が高いものかということが分かる。ピークを過ぎた状態でフェデラーはいまだにツアーのほとんどの選手よりも強い状態を保っているのだ。

注目となるジョコビッチとの対決


ただ、たとえスタッツが大きく変わらなくても、フェデラーのタイトル数の減少や大きな大会での早期敗退がかつてより目立つようになっているのは間違いない。つまり、かつてのフェデラーと今のフェデラーでは、タイトルを取れるかどうかのギリギリのところでの集中力だったり、数本のショットの精度だったりという微妙な差があるということなのだろう。

今後のツアーでもベテラン、若手の多くの選手がフェデラー前に立ちはだかっていくことになるはずだが、グランドスラムという舞台に限ると、トップ選手の中でもジョコビッチとの対決はとりわけ注目かもしれない。フェデラーとジョコビッチの対戦成績はフェデラーから見て通算22勝23敗と競っており、近年ではジョコビッチが優位ではあるものの、連勝は初対戦からフェデラーが4連勝した以外はお互いに最大でも3連勝までで、それほど一方的な流れにはなっていない。しかし、それがグランドスラムとなると、2010年以降でフェデラーはジョコビッチに2勝9敗となっており、2014年と2015年と合わせて3度進出したグランドスラムの決勝で全てジョコビッチに屈しているのだ。

全豪を制したことで、フェデラーは今年もこれまでと変わらぬツアートップクラスの力を備えていることは証明した。では、今のフェデラーは5セットマッチでジョコビッチに勝てるだろうか?全豪を早期敗退したジョコビッチの状態は気になるところだが、これまでのジョコビッチの実績を考えると、フェデラーがグランドスラムでさらに勝利を重ねようとするときに、ジョコビッチの存在が大きな壁となる可能性は決して低くないだろう。

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