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どちらが勝つか、普段よりも分からない。それが普通の決勝戦のはずなのだが、どこにでも例外は存在する。
驚異のムスター、負けないダビデンコに次いで、決勝戦での強さを発揮している選手としてトーマス・エンクビストの名前をあげることが出来るだろう。
トーマス・エンクビストの決勝戦の勝率
| タイトル | 準優勝 | 通算勝ち | 通算負け | 決勝勝率 | 通算勝率 | 勝率差 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Thomas Muster | 44 | 11 | 625 | 273 | 80.0% | 69.6% | 10.4% |
| Nikolay Davydenko | 21 | 7 | 482 | 329 | 75.0% | 59.4% | 15.6% |
| Thomas Enqvist | 19 | 7 | 448 | 297 | 73.1% | 60.1% | 12.9% |
スウェーデン NO.4の男?トーマス・エンクビスト
エンクビストは全豪オープンで1度の準優勝があり、最高ランキングは4位、19回のツアー優勝を誇る強豪選手である。
ただ、スウェーデンは人口1000万前後と大国とは言いがたい規模にも関わらず、数多くの優秀なテニス選手を輩出しており、輝かしい実績を誇るエンクビストでも歴代のスウェーデン人の選手の中でトップの実績を残しているわけではない。
スウェーデンの強豪選手
| 選手 | 生年月日 | 勝利数 | 敗北数 | 勝率 | 最高ランク | タイトル数 | 決勝勝率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Bjorn Borg | 1956/6/6 | 654 | 140 | 82.4% | 1 | 66 | 71.0% |
| Stefan Edberg | 1966/1/19 | 801 | 270 | 74.8% | 1 | 41 | 53.2% |
| Mats Wilander | 1964/8/22 | 571 | 222 | 72.0% | 1 | 33 | 55.9% |
| Thomas Enqvist | 1974/3/13 | 448 | 297 | 60.1% | 4 | 19 | 73.1% |
| Magnus Gustafsson | 1967/1/3 | 415 | 260 | 61.5% | 10 | 14 | 53.8% |
| Joakim Nystrom | 1963/2/20 | 265 | 142 | 65.1% | 7 | 13 | 72.2% |
| Magnus Norman | 1976/5/30 | 244 | 177 | 58.0% | 2 | 12 | 66.7% |
| Robin Soderling | 1984/8/14 | 310 | 170 | 64.6% | 4 | 10 | 50.0% |
| Thomas Johansson | 1975/3/24 | 357 | 296 | 54.7% | 7 | 9 | 64.3% |
| Kent Carlsson | 1968/1/3 | 160 | 54 | 74.8% | 6 | 9 | 52.9% |
| Anders Jarryd | 1961/7/13 | 396 | 261 | 60.3% | 5 | 8 | 33.3% |
| Magnus Larsson | 1970/3/25 | 310 | 221 | 58.4% | 10 | 7 | 46.7% |
| Jonas Bjorkman | 1972/3/23 | 414 | 362 | 53.4% | 4 | 6 | 54.5% |
| Jonas Svensson | 1966/10/21 | 258 | 204 | 55.8% | 10 | 5 | 35.7% |
| Henrik Sundstrom | 1964/2/29 | 154 | 109 | 58.6% | 6 | 5 | 38.5% |
| Nicklas Kulti | 1971/4/22 | 154 | 182 | 45.8% | 32 | 3 | 42.9% |
| Peter Lundgren | 1965/1/29 | 119 | 136 | 46.7% | 25 | 3 | 50.0% |
| Mikael Pernfors | 1963/7/16 | 140 | 114 | 55.1% | 10 | 3 | 60.0% |
スウェーデン人選手の中の上位の3人、ボルグ、エドバーグ、ビランデルは、テニス史上でもレジェンドと呼ばれる存在で、スウェーデンがテニス大国であることを象徴する選手たちと言えるだろう。
その次に来るのが、エンクビスト、またはマグヌス・グスタフソン、またはヨアキム・ニーストロム、またはマグナス・ノーマン、またはロビン・ソダーリング、またはトーマス・ヨハンソン、またはケント・カールソンといった選手になるのだろう。
この7人の中で最もツアー優勝の回数が少ないのが、ヨハンソンとカールソンの9回というスウェーデンの選手層の厚さには驚くほかない。
そして、この7人の中で最もツアー優勝の回数が多いのが、エンクビストの19回で、決勝戦での勝率が最も高いのもエンクビストの73.1%という数字となっている。
エンクビストもムスター、ダビデンコと同じく、ツアーの決勝戦で強い選手に勝ち切って来ている。エンクビストが戦った26回の決勝戦の対戦相手はその全員がランキング100位以内の選手で、エンクビストはトップ10の選手にも5勝4敗、それ以下のランキングの選手には14勝3敗と大きく勝ち越している。というか、ランキング30位以下の選手には8戦して8勝という無敵ぶりを発揮しているのだ。
その対戦相手の中には、まだ10代だったヒューイットをオーストラリアのアデレードで、そして同じく10代だったフェデラーをスイスのバーゼルで破った試合も含まれている。のちのレジェンドたちをそれぞれの地元大会の、よりによって決勝戦、さらにどちらもフルセットの逆転勝ちで破ってしまっているところにエンクビストの勝負強さが感じられる。
ツアーの決勝戦でエンクビストに勝利したことのある選手は7人いるが、その7人全員が世界ランキング1位、または2位に入ったことがあるという強豪選手なのだ。ツアーの決勝戦まで勝ち上がって来たエンクビストを倒すことは、トップ選手にしか出来ない芸当だったのかもしれない。
痛恨の準優勝
ただ、エンクビストは得意なはずの決勝戦で痛恨の敗戦を喫している。
1999年全豪オープン決勝である
相手はロシアのカフェルニコフだった。エンクビストとカフェルニコフは同じ1974年生まれだが、カフェルニコフは既に1996年の全仏オープンで優勝しており、1999年の全豪オープンの時の世界ランキングは、21位でノーシードのエンクビストに対し、カフェルニコフは10位でシード選手だった。
単純にランキングと実績を考えれば、カフェルニコフの方が上位に位置しているのだが、この時点での2人の対戦成績は、エンクビストから見て4勝2敗、しかもそこには2度の決勝戦が含まれており、その2度ともにエンクビストが勝利していた。さらにこの2人の直前の対戦は、前年となる1998年の全仏オープンで、そこでエンクビストは1996年優勝者であるカフェルニコフに勝利していたのだ。
そして迎えた全豪オープンの決勝戦、第1セットはエンクビストが取った。しかし、そこから2セットをカフェルニコフに取られ、第4セットはタイブレークとなり、それを落としての敗戦である。
この全豪オープンの後、エンクビストとカフェルニコフはさらに7回対戦するが、対戦成績はエンクビストから見て2勝5敗と負け越している。
単純にこの全豪オープンの時からカフェルニコフがエンクビストを少しずつ上回っていくようになったということなのかもしれない。しかし、エンクビストから見ると、あまりにも惜しい試合を落としたということになりそうだ。
決勝に強い選手
ムスター、ダビデンコ、エンクビストの記録を見る限り、彼らはなぜか決勝戦に強い選手だと言うことが出来るだろう。
決勝戦になると、何か特別な力が湧いてきて、普段以上のプレーが出来る。
そんなこともあるのかもしれない。
次の決勝戦で勝てるかどうかと問われたとき、選手本人は「必ず勝つ」と言うかもしれない。
しかしやはり、どちらが勝つか、やってみないと分からないというのが本当なのだろう。
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