そもそも決勝に進出することが難しいという現実
プロテニス、特にトップカテゴリーとなるATPのツアーでタイトルを獲得することは並大抵のことではない。
トーナメントでは勝ち上がっていくほど、相手は強くなり、より好調であることが多い。もちろん、同じトーナメントで勝ち上がっている自分自身についても、対戦相手と同じように強く、好調であるとも言えるわけだが、勝ち上がるにつれて、より強力な相手と対戦することになる確率が増えてくるのは間違いないだろう。
当然、そのトーナメントの最後の1戦である決勝戦ともなれば、どちらが勝ってもおかしくないという状況が普通の試合の際よりも増えてくることが予想される。
実際、トップ選手の実績を見ても、決勝戦での勝率はキャリア通算の勝率を下回っていることが多い。
現在のトップ10選手の勝率 (2025年9月29日付)
| ランキング | 選手 | 優勝 | 準優勝 | 決勝勝率 | 通算勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Carlos Alcaraz | 24 | 7 | 77.4% | 81.4% |
| 2 | Jannik Sinner | 21 | 9 | 70.0% | 78.2% |
| 3 | Alexander Zverev | 24 | 15 | 61.5% | 70.1% |
| 4 | Taylor Fritz | 10 | 9 | 52.6% | 61.6% |
| 5 | Novak Djokovic | 100 | 43 | 69.9% | 83.3% |
| 6 | Ben Shelton | 3 | 2 | 60.0% | 60.3% |
| 7 | Alex de Minaur | 10 | 9 | 52.6% | 63.1% |
| 8 | Jack Draper | 3 | 4 | 42.9% | 64.5% |
| 9 | Lorenzo Musetti | 2 | 5 | 28.6% | 57.0% |
| 10 | Karen Khachanov | 7 | 4 | 63.6% | 58.5% |
現在のトップ10の選手の中で、決勝戦の勝率がキャリア通算での勝率を上回っているのは、ハチャノフ1人しかいない。
ハチャノフの場合、58.5%というキャリア通算の勝率の方がトップ10選手としては低めかもしれないという懸念はあるものの、63.6%という決勝戦での勝率はなかなか高い数字と言えるだろう。
しかし、この数字は当然ハチャノフの決勝戦での成績に大きく左右されるため、ハチャノフが次にツアーの決勝戦に進出して、そこで惜しくも準優勝ということになると、ハチャノフの決勝戦での勝率は58.3%となり、現在の通算勝率をわずかに下回ってしまう可能性がある危うい数字でもあるのだ。
逆に言えば、現時点では決勝戦での勝率が28.6%と散々な結果となっているムゼッティの場合も、次に進出した決勝戦で勝てば決勝戦での勝率は3割を越え、その次の決勝戦でも勝つことが出来れば、その勝率は4割を越えることになる。
もちろん、数字のブレがこのように大きくなってしまうのは、ハチャノフ、ムゼッティの決勝戦への進出回数がまだそれほど多くないということに原因があるのだが、そもそもATPツアーの決勝戦に進出すること自体がかなり難しいため、そこで15勝、20勝などブレが少なくなっていくような数字を残すことは、一部の選手にしか出来ない偉業と言えるだろう。
それを踏まえると、通算で143回ものツアー決勝戦を戦い、そこで69.9%という勝率を残しているジョコビッチはまさにレジェンドと言うほかないのだ。
どちらが勝つか分からない!それが普通の決勝戦
ただ、そのジョコビッチの通算勝率はというと、83.3%という驚きの数字となっており、69.9%という高めの決勝戦の勝率でさえ「ジョコビッチにしては」低いと言える。
「そりゃそうだ」と多くの人が思うだろう。
ジョコビッチのキャリアはフェデラー、ナダル、マレーと自分自身を含むBIG4の全盛期と重なっており、現在ではアルカラス、シナーという新世代とも相対している。当然、ジョコビッチが決勝戦まで進出すると、そこで対戦する相手は強敵ばかりとなる。
その決勝戦で、トーナメントの1回戦や2回戦も含めた場合と同じ勝率を残すことなど、到底考えられないことなのだ。
現にATPツアーで50タイトル以上を獲得したレジェンド級の選手の勝率を見ると、該当する12人の選手全員が決勝戦の勝率はキャリア通算の勝率を下回っている。
ツアー優勝 歴代上位選手の勝率
| 選手 | 優勝 | 準優勝 | 決勝勝率 | 通算勝率 |
|---|---|---|---|---|
| Jimmy Connors | 109 | 55 | 66.5% | 81.8% |
| Roger Federer | 103 | 54 | 65.6% | 82.0% |
| Novak Djokovic | 100 | 43 | 69.9% | 83.3% |
| Ivan Lendl | 94 | 52 | 64.4% | 81.5% |
| Rafael Nadal | 92 | 39 | 70.2% | 82.6% |
| Rod Laver | 78 | 32 | 70.9% | 79.8% |
| John McEnroe | 77 | 32 | 70.6% | 81.7% |
| Bjorn Borg | 66 | 27 | 71.0% | 82.4% |
| Ilie Nastase | 64 | 41 | 61.0% | 73.1% |
| Pete Sampras | 64 | 24 | 72.7% | 77.4% |
| Guillermo Vilas | 62 | 42 | 59.6% | 76.2% |
| Andre Agassi | 60 | 30 | 66.7% | 76.0% |
12人のうち、7人が80%以上の通算勝率を誇り、残りの5人も70%を超えているという猛者ばかりである。そしてその全員がグランドスラムのタイトルを複数回獲得しているという、まさに時代を代表する選手たちである。
しかし、そんな彼らでさえも、強敵を迎えることの多い決勝戦となると普段より勝率が落ちる。
落ちると言っても、この12人の中では決勝戦での勝率が最も低いビラスで約60%あり、最も高いサンプラスになると約73%あるので、普通に考えれば高い数字になるのだが、普段がスゴすぎる彼らにとってさえも、いつもよりも難しい試合になることが多いのが決勝戦と言うことは出来るだろう。
どちらが勝つか、いつもの試合よりも分からない!それが普通の決勝戦なのだ。
ただ、その「普通」に当てはまらない選手がいることも事実である。
→続く〈決勝戦で強い男(2)〉

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