次にツアーで1000勝するのは誰?(WTA篇)

WTAツアー

女子でもやっぱり高い1000勝のハードル

ATPツアーで1000勝を達成するということは非常に難しいわけだが、女子ツアーのWTAではどうなのだろうか?(参照→次にツアーで1000勝するのは誰?(ATP篇)

これがまたかなり難しい。

実際のところ、ATPツアーより達成が難しい可能性が高いかもしれない。

その理由は、シンプルに達成者が少ないためである。

ATPツアーで1000勝を達成したのも、コナーズ、レンドル、フェデラー、ナダル、ジョコビッチというスーパーレジェンドな5人に限られているのだが、女子ツアーで1000勝を達成したのは、クリス・エバート、そしてマルチナ・ナブラチロワのたった2人しかいないのだ。

圧倒的な強さを誇りながらも、マイペースで大会にエントリーをしていたセレナが通算858勝にとどまっているのは何となくイメージ通りなところもあるが、一時代どころかニ時代くらい築いていた感のあるグラフでさえも達成していないとなると、1000勝のハードルはかなり高い位置にあると言えるだろう。

1000勝を達成した選手のツアー勝利数 累計グラフ

WTAでの1000勝達成者の勝利数のグラフを見てみると、実際に1000勝を達成した2人、エバートとナブラチロワの圧倒的な成績に驚かされる。

通算の勝利数はエバートが1294勝、ナブラチロワは1462勝となっており、男子ツアーでの最多勝利数を記録しているコナーズの1271勝をともに上回っている。特にナブラチロワは80勝以上の勝利を上げたシーズンが、8シーズンもあり(コナーズは3回)、まさに圧巻と言える勝利数を記録している。

参考として、グラフとセレナの勝利数もグラフに入れている。普通ならジュニアでも低年齢期にあたる弱冠12歳でシニアレベルでの初勝利をあげているグラフは破竹の勢いで勝利を積み重ねるが、ケガの影響もあり、30歳になる年で引退してしまう。逆にセレナは32歳になる年にキャリア最高の年間78勝をあげるなど、息の長いキャリアを築いたが、出場する大会数がそれほど多くないため、支配力の強さのイメージほどは勝利数が積み上がっていない結果となっている。

1000勝を達成する女子選手は登場するのか

はたして、次に1000勝という記録に到達する女子選手は誰か?というと、今のところ、まったく見当がつかないということになるだろう。

正直なところ、達成できる選手が現れる感じがしないのだ。

現在のWTAトップ選手の勝利数と、ナブラチロワ、そしてセレナの勝利数とを見比べてみる。

1000勝を達成するかもしれない選手のツアー勝利数 累計グラフ

現在のツアー上位選手の中から、セレナの勝利数ペースと比較出来るレベルにある選手をピックアップしたが、実際のところ、セレナのペースでは1000勝に届かない可能性が高いので、1000勝を目指すためには、もっとペースを上げなければならない。しかし、それは簡単ではなさそうに思える。

現在の女子のNo.1、サバレンカだが、No.1になった今年が56勝、昨年が55勝である。現在通算419勝のサバレンカが1000勝に到達するためには、年間55勝ペースだとあと10年以上かかることになる。同じ時期となる27歳から36歳までのナブラチロワの勝利数は年間平均で約68勝、セレナは約43勝となっている。可能性はゼロではないが、ハードルは相当高いと言えるだろう。

サバレンカの1つ年下で、年間最高で57勝をあげたことのあるリバキナも、年間57勝ペースをあと11年以上続けて、30代後半で1000勝を達成することが出来る。そしてリバキナの今年の勝利数は42勝、昨年も45勝となっており、これから爆発的に勝利数を伸ばしていける要素は多くない。

この3年、ツアーで60勝以上を上げ続け、ランキングはNO.2に落ちたとはいえ、支配的な存在となっているシフィオンテクでさえも、目標を1000勝達成に置くとなると、かなり厳しい現実に直面することとなる。

シフィオンテクは年間最高で68勝を上げたことがあり、No.2に落ちた今年も61勝を上げている。仮に年間で65勝を上げ続けることが出来たとして、それでもそれを10年続けて、ようやく1000勝まであと8勝となる992勝となる。その時、シフィオンテクは33歳になっている。もし、シフィオンテクがこの後10年連続で65勝を上げ続けることが出来れば、その時には史上最強の呼び声も上がっていることだろう。

集計されている試合数の問題

1000勝達成という目標に対して、数字的にはまだ可能性を感じさせるのが、20歳にして通算200勝を越えているガウフである。その勝利数ペースは現時点でナブラチロワを上回っている。

ただ、ここからが問題で、実はWTAは通算勝利数の記録に下部大会にあたるITF大会での勝利数も含めて計算している。このため、ガウフは15歳で年間29勝という数字を持っているが、29勝という数字にはITF大会での11勝という数字が含まれているのだ。

ガウフの場合、この15歳となる年でWTA500のリンツで優勝してしまっていたりするので、若い時からその実力が高いことは間違いない。ただ、ナブラチロワやエバートの時代は現在とはツアーの仕組みが異なっているため、現在の選手の若い時の数字は以前の選手と比べると上振れしてしまっている可能性がある。

ランキングでトップ20に入っている17歳のアンドレーワもすでに100勝以上をあげており、その勝利数ペースはガウフさえをも上回っているが、アンドレーワのツアーへの本格参戦は今年からで、それ以前の勝利数には、ITF大会での勝利数が多く含まれている。今年55勝をあげ、通算で149勝を上げている20歳のシュナイダーも同様で、今年の前半まではITF大会を主戦場としていて、次第にWTAレベルにステップアップしている。

ツアーで勝利数を重ねていくと、当然ランキングもあがり、ITF大会には出場しなくなってくるので、時が経つにつれて上振れ分は自然に解消していくことになる。このため、結局のところは年間で何勝上げることが出来るのか、ということが通算勝利数で記録を伸ばすためには重要なポイントとなる。

ガウフの場合、年間での最多勝利数は今年の54勝、アンドレーワの場合は15歳時点の39勝が最多勝利数で、その次の年は36勝、そして今年は34勝にとどまっている。

1000勝を達成するためには、年間50勝で20年、年間60勝を上げても16年以上かかる。年間50勝を上げることが出来ない選手にとっては、目指すことを想像することも出来ない高みにある目標と言えるだろう。

時代の違い。それを打ち破ることが出来るのは圧倒的な強さ

そして、出場する大会の数にも時代の違いは表れている。

ナブラチロワの場合、10代後半から20代前半には20大会以上に出場していて、最高で25の大会に出場したこともあったが、シフィオンテクが年間での最多勝利数となる68勝をあげた2023年の出場大会数は18大会である。1大会で4勝すると計算した場合、出場する大会数が3つ少なければ、年間で10勝以上の差がつくことになる。

ナブラチロワが活躍していた時代と比べると、ボールも、選手の動きもスピードアップして、よりアスリート能力が求められるようになった現代のテニスにおいて、選手が出場する大会を今以上に増やしていくことはあまり現実的ではないだろう。

また、女子選手の場合、クライシュテルス、アザレンカ、セレナ、大坂などのように、たとえトップ選手であっても、妊娠、出産でキャリアを中断する可能性がある。かつては女子選手の妊娠、出産イコール引退というイメージがあったが、出産後も成功している選手が何人も登場して来ているため、今後は妊娠、出産後も育児や健康とのバランスを取りながら、大会に出場する選手が増えていくことになるだろう。育児は分担することが可能とはいえ、1000勝を達成することを基準とした場合、女子選手が長い年月ツアーを回り続けて、勝利を積み重ねていくことの困難さは男子選手を上回るかもしれない。

ただ、ナブラチロワが年間での最多勝利数である90勝を達成したときの出場大会数は19大会、ナブラチロワの場合、15大会の出場で78勝をあげたシーズンもある。現在の選手でも出場できない大会数では全くない。

ナブラチロワくらいの強さを発揮しなければ、ナブラチロワの記録に近づくことは出来ない。

考えてみれば、まあ当たり前のことである。

90勝したシーズンでのナブラチロワの敗戦はわずかに3、翌シーズンのナブラチロワは86勝して、敗戦はたったの1である。

今のところ、ナブラチロワの記録ははるか高みにあるが、その頂きを目指す選手がいつか登場する可能性は決してゼロではないはずだ。

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