ATPツアーで1000勝するという偉業
ラファエル・ナダルが引退した。
ナダルの最も輝かしい実績となると、おそらく全仏オープンでの14回の優勝ということになるのだろう。
しかし、何しろ10代後半から30代後半となるまで、20年以上トップを走り続けた選手である。記録づくめなのは当然なのだが、ツアー通算で1080勝という通算勝利数もナダルが誇るべき記録の1つだろう。
なぜなら、ATPツアーで1000勝することは非常に困難なミッションとなっているためである。
※女子ツアーの1000勝はこちら→次にツアーで1000勝するのは誰?(WTA篇)
これまでATPツアーで1000勝を達成できた選手は、コナーズ、レンドル、フェデラー、ジョコビッチ、そしてナダルの5人しかいない。
続くのはビラスの951勝、ナスターゼの908勝、マッケンローの883勝、アガシの870勝、エドバーグの801勝となっている。フェデラーの前に一時代を築いたサンプラスでさえも762勝にとどまっている。
ATPツアー1000勝を達成した選手の勝利数の積み上げ方をグラフにしてみると、そのペースの速さと持続力の長さに驚くことになる。
1000勝を達成した選手のツアー勝利数 累計グラフ
1000勝を達成したのは5人の選手全員が30歳を超えてからで、コナーズとレンドルが32歳になる年、フェデラーとナダルが34歳になる年、ジョコビッチが35歳になる年に達成している。そして1000勝を達成する年の年間勝利数はコナーズが74勝、レンドルが50勝、フェデラーが63勝、ナダルが27勝、ジョコビッチが42勝となっている。既にケガに苦しんでいたナダルは勝利数を落としているものの、その他の選手は30歳を超えているとは思えない勝利数を上げている。
グラフに参考として錦織の累計勝利数を入れたが、その差は圧倒的と言うほかない。決して揶揄する目的で錦織を加えたわけではない。錦織は1989年生まれではおそらく世界最高の選手で、ATPツアー通算で400勝を達成できる選手などほとんどいないことを付け加えておかなければならないだろう。1000勝を達成する選手たちが、あまりにも抜きんでているということである。
ジョコビッチだけに許されたチャレンジ
ナダルが引退したことで、ツアー通算勝利数という数字についての注目は、いまだ現役のジョコビッチが、コナーズの1274勝を超えることが出来るのかということになるが、残念ながら、おそらく難しいだろう。実際問題、フェデラーの1251勝に到達することも厳しいかもしれない。
今年が終わった時点でジョコビッチの勝利数は1124勝となっている。フェデラーの1251勝までは残り127勝である。ジョコビッチは最高で年間82勝を上げたことがあるが、それはつまり、ジョコビッチがベストフォームだとしても、来年の間にフェデラーの勝利数に追い付くことはほぼ不可能だということを意味している。そして、ここ5年のジョコビッチの年間勝利数の平均は46.2勝となっていて、手術のためにツアー離脱もあった今年は37勝(それでも十分にスゴいのだが)にとどまっている。
40歳になる年まで現役を続けたフェデラーと同じく、ジョコビッチも40歳まで現役を続けられたとすると、来年38歳になるジョコビッチに残された時間はあと3年ということになる。年平均で42勝、そしてどこかでプラス1勝をクリアすれば、127勝に到達する。
今年の健康だった時のジョコビッチの強さを考えると、ケガさえなければ十分に達成出来そうな気もするが、そのケガの危険性が年齢とともに侮れないものとなってくることも周知の事実である。フェデラーは38歳になる年に53勝を上げたが、その後、引退することになるまでの2年間はケガでほとんど離脱したため、勝利数は5勝、9勝に留まっている。
ジョコビッチがエントリーする大会数をグッと絞り、むしろ活動期間でもコナーズを超えることを目標にして、マイペースで45歳まで現役を続けるつもりになれば、あと8年の時間が残されていることになる。8年の長期スパンで考えれば、年平均16勝でフェデラーを超え、年平均19勝でコナーズをも超えることが出来る。
42勝を3年続けるか、19勝を8年続けるか、どちらにしても来年38歳になる選手の目標としては、正直なところ、現実味を感じられないほどのハイレベルさに思える。おそらく難しいと思うが、もしも達成できるとしたら、それこそジョコビッチくらいだろう。
次に1000勝を達成できるのは誰か?
史上最高のツアー勝利数を目指すのは、今のところジョコビッチにしか許されないチャレンジとなるが、それを追う次世代の選手はどうだろうか。
まずは1000勝という大きな壁をクリアすることが出来るかどうかということになるが、これまで1000勝を達成してきた選手のペースを考えると、26歳になる年に半分の500勝はクリアしておきたい。そして、この条件だけでグッと候補者が絞られてしまう。
1000勝を達成するペースの基準として、フェデラーとジョコビッチの勝利数と、1000勝を達成するかもしれない現役の候補選手の勝利数を比べてみると、1000勝達成はやはり簡単ではないことが分かってしまう。
1000勝を達成するかもしれない選手のツアー勝利数 累計グラフ
まずは既に463勝を上げているズベレフだが、27歳の時点で半分の500勝を達成しておらず、通算1000勝は難しそうな状況となっている。今年のズベレフと同じ27歳になる年が終わった時点でフェデラー、ジョコビッチは、ともに600勝を超えている。今年完全復活したズベレフは過去最高の年間69勝を上げたが、1000勝に到達するためには、70勝ペースをあと8年、35歳になる年まで続けなければならない。
今年の後半から敵無し状態となっているシナーにしても、1000勝達成となると簡単なことではない。今年と同じ年間73勝を10年間続けることが出来たとしても、33歳になった年の終わりにようやく993勝に到達することが出来る。
今のところ、最も可能性があるのはアルカラスだろう。21歳になった年の終わりの時点でのアルカラスの勝利数は、フェデラー、ジョコビッチを上回っている。ただ、そのアルカラスでさえ、これまでの最高の年間勝利数である65勝を12年間続けて、33歳になった年の終わりに1000勝まであと11勝に迫る989勝にようやく到達することが出来る。
アルカラスと同い年のルーネにも期待したいところだが、ルーネの年間最多勝利数は、今年の45勝にとどまっている。まずは年間50勝を達成出来ないことには、1000勝ペースからは離れていくばかりとなってしまうだろう。
以上のように、現在のATPツアーのトップ選手の記録を見ても、ATPツアーで1000勝を達成することは、相当に困難であると言うほかない。現在の他のトップ選手、メドベージェフ、フリッツ、ルード、チチパスらは、ズベレフの勝利数ペースを下回っており、1000勝達成はさらに難しいだろう。
まずは大きなケガをせず、多くの試合に出場し続けることが出来ること、そして他の選手を圧倒する強さを持っていること。これを15年くらい続けることが出来て、ようやく見えてくるのがツアー1000勝という金字塔ということになる。改めてフェデラー、ナダル、ジョコビッチのレベルの高さと、彼らとの対戦を強いられた同世代ライバルたちの困難さを思い知らされる。
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